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2008/04/07

「神か女か」 ウルビーノのヴィーナス - 新日曜美術館&国際シンポジュウム

domenica, il sei aprile 2008

      Im_venere080304_01
   《ウルビーノのヴィーナス/Venere di Urbino》
          ティツィアーノ  1538年頃
         ウフィツィ美術館

 今朝の「新日曜美術館では、解剖学者の養老孟司氏が        
ゲスト出演されて、大変明解なコメントを次から次へとお話し
されるので、司会者の壇さんは「へぇ~!」と何度も目を丸く
されて驚かれているご様子は、失礼ですが、ちょっと面白かった
です~confident 私も驚くことばかりでしたが、当時は解剖学の本
が初めて刊行されていたこともあり、画家はもちろん解剖に
ついて詳しく工房などで勉強をしていたとのことでした。
そうでなければ、あのような美しくて生々しい裸体が描けない
そうです。

 また、当時のヴェネチアが絶頂期で繁栄していたからこそ
このような裸の女性の絵を描いても許されるような状況だった
ことや、ティチアーノが何度もこの絵の下絵を描いたり周到に
時間をかけて研究するように描いていたのではないか、と
養老氏は言及されていました。

 ティチアーノのヴィナースは、「プラド美術館展」のときに
「ヴィーナスとオルガン奏者」を初めて観ましたが、ヴィーナス
の不思議な絵が強烈ながら、後ろの背景の庭園も魅了された
のは言うまでもありません。そのときに、同じく展示してあった
大作「フェリペ2世」の犬を伴えて勇ましい肖像画が強く印象
に残っていました。

      Poster

 今回の「ウルビーノのヴィーナス展」でのヴィーナスは、
全体的な色のトーンが素晴らしくて、色香が漂う独特の
ティチアーノの世界が浮き彫りになっています。観ているだけで
バラの香りが漂ってくるようで、その妖艶なヴィーナスの前に
いると、自分が女性なのに、甘く包み込まれるような陶酔感を
感じてしまうほどでした。

 また、本展は美しいギリシャ・ローマ彫刻の作品が展示されて、
ヴィーナスが持つ恥じらいや女性的な美の美しさが最大限に
表されています。さすがに欧州の「美」に対する審美眼というのは
昔からこのような彫像から画家たちはインスピレーションを得て
作品を描いていったのではないかと思えるほど、神々しい完成
された美に360度魅入るように鑑賞いたしました。

 以下は、少し調べたことから書いてみます。

 ギリシャ・ローマ神話などの神々の話が土台となって造られた
ヴィーナスの彫刻ですが、その元は旧石器時代の「地母神」から
女性というものが、人類と動植物など繁栄の守り神のようにして
造られ信仰像として崇められていた影響を受けています。

 その素朴だったオリエントの地母神のイメージからギリシャ人が
ギリシャ神話を信仰として書いて読み継がれているうちに、もっと
洗練された美しいヴィーナスとして、女性の美しい理想像に近く
なるように造形美としても昇華していったようです。

 そしてプラトンの「饗宴」のなかで、アプロディテを高貴で神聖な
愛のアプレディテ・ウラニア(天上の愛)と、情熱的ですが低俗な
アプロディテ・バンデモス(世俗の愛)の二種に分類していたそう
です。アプロディテは、聖俗の二面性を持ち、人間の高貴な愛の
女神であると同時に、娼婦の守り神としても崇拝されていたことが
後の芸術家たちを刺激して行ったようです。

 このように昔からヴィーナスは「神性」と「世俗性」の二つの面
を見せる作品が描かれたり彫刻で彫られたりするのが伝統の
ように芸術作品には多く残されたようです。


          Ikesensei_2
  ルネサンスのエロティック美術」@国際シンポジウム

 今回のティチアーノの作品でいろいろと議論が分かれている
ようですが、これは、結婚記念画なのか、エロティックな関係を
示すのか、私的な作品なのか、ということで、先週の土曜日も
国際シンポジュームでは、池上先生はイタリア語で
ヴィーナスの変容ーヌード、バラ、復活と五感」という主題で
発表をされていました。先生のお話が大変興味深かったので、
書き留めておきたいと思います。

 当時、ヴェネチアに6800人もの娼婦がいた、と言われていますが、
モデルはその中の高級娼婦が描かれていてもおかしくはない、と
のことです。

 のちのウルビーノ公、グイドバルド・デラ・ローヴェレと結婚する
后はまだ当時、10歳そこそこの少女だったこともあり夫から妻へ
夫婦教育のために、ティチアーノに依頼して描かせたのではないか
とも言われています。

 画中奥、左の少女は頭を半ば、カッソーネ(衣装箱)につっこむ
ようにして覗いているのは、何か不自然なのですが、当時は
この中にはエロチックな絵が描かれていたそうなので、それを
好奇心で覗いていたのではないか、とのことでした。

 それから、池上先生は、ヴィーナスが右手に持っている赤い
薔薇は、ヴィーナスと聖母マリアのシンボルであることを雅歌の
一節と「閉ざされた庭」の図版とともに図像伝統の内容を詳しく
説明してくださいました。

 「閉ざされた庭」では、サクランボやスズラン、ユリ、アイリス
が描かれていますが、それは聖母マリアの純潔と無垢を象徴
するとのことでした。

 バラは元々、棘がなかったのですが、アダムとエヴァの原罪
から棘が出来たのですが、逆に聖母マリアを<イバラの無いバラ
としてみなす無原罪の伝統ができてきたそうです。

 それから、バラは聖母マリアの王冠や背後に描かれるように
重要なマリアの図像となってきた、とのことでした。

 また、<五感の寓意>の”嗅覚”としての花と、もう一つ
図像伝統である<ヴァニタス>の寓意から、花はいつかは
枯れるので、<はかなさ・虚栄>のモチーフとして使われる
ことが多かったそうです。

     Kyuukaku  
            「嗅覚の寓意」
           ヤン・ブリューゲル (父)
           1617~1618年
 

 私はアロマテラピーを趣味として時々、お習いしていますが
そのときも文献などで見かけたヤン・ブリューゲル(父)作
嗅覚の寓意>の作品をご紹介してくださいました。先生は
画中の<嗅覚>として描かれてた裸婦の女性は、クピドを連れて
いるのでアフロディテの図像を受けているとお話をされました。

 ギリシャ神話でもアフロディテはバラによって象徴される
女神のエピソードが、キリスト教の聖母マリアのイメージと
連なっていくことをバラの白と赤の色でご説明されました。

 もっと詳しくご解説いただいたのですが、その辺は省略
させていただきます。バラを握り締めたヴィーナスのそば
には、「肉欲と忠誠」の象徴である「犬」がいたり、奥には
「ギンバイカ」という常緑樹である「死と永遠」の象徴である
アトリビュートが置かれていたり、三人の女性がいることは
「三世代の寓意」ヴァニタスを表すなど、この作品が
エロチックな作品なのか、結婚記念画であるのか一方を
決めることはできない、との結論でした。

 バラの図像伝統がこのように、女神から聖母マリアに繋がって
いるなんて非常に面白くて、シンポ以来、いろいろと文献も漁って
みましたが中々、見つからずにおりました。池上先生のご専門家
としてのこのような発表が拝聴できたことはやはり国際会議なら
ではの素晴らしい内容だったと思います。

 一気に思い出しながら書いてしまったので、間違っている部分も
あるかと思いますが、どうぞご指摘くださいませ。

 ヴィーナスというのは、文学的にも絵画的にも宗教的にも
大いなるバックグランドを持つ存在であることが、このシンポ
のあとに本を読んだりしても分かりました。

 展覧会は5月18日まで西洋美術館(公式HP)で開催されています。

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コメント

残念ながら池上先生の講演には参加できなかったけど、Juliaさんの素晴らしいレポで理解が深まりました。
Juliaさん、ありがとうございます!
会期中にもう観に一度行けるといいなぁ・・・

投稿: えりり | 2008/04/07 08:27

絶頂ってなに?

投稿: BlogPetのJenny | 2008/04/07 15:41

えりりさん

コメント、ありがとうございます~note

昨夜は書かなくっちゃという勢いだけで書いたので
今、急いで加筆修正しました

勢いがないとなんでも突っ走れませんよね~~smile>
下手でも頑張って書いてみました。

また、鑑賞会が出来るとよいのですが。。先生の
ご説明でもう一度、私も見に行きたいです~heart04

投稿: Julia | 2008/04/07 23:18

こんばんは。バラの話がよく整理されていますね。池上先生の面目躍如といった講演と司会でした。

投稿: とら | 2008/04/09 22:39

詳細な記事にしていただいてありがとうございます。

さっそく鑑賞会の日程案をメールしましたので、Nikkiさんとご検討ください。

投稿: ike | 2008/04/09 23:40

とらさん

コメント&TBをありがとうございましたheart04

とらさんのレポートでちょっと助かりました~coldsweats01
とらさんの記憶力は本当に素晴らしいですね!

また、先生が5月に鑑賞会をしてくださるそう
ですので、ぜひご参加くださいね。
お待ちしております~note

TBは後ほど伺います。

投稿: Julia | 2008/04/09 23:57

ike先生、

お忙しいのに、こちらまでコメントをありがとうございました。

シンポ以来、ヴィーナス漬けのように本を読んでいたら、
もう裸の女性の絵を観るのがちょっとうんざり~happy02
してしまったのですが、先生はそんなことお感じに
ならないかしらね~heart04 なんて思ったりしました。

メールもありがとうございました。早速、Nikkiさんと
ご相談してみますが、私は第2案がベストと思っています。
また、先生とご一緒できるのを楽しみにしておりますね~heart

投稿: Julia | 2008/04/10 00:03

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